令和2年6月議会 一般質問
6月15日 令和2年第2回定例議会の一般質問に登壇しました。
本日2番目、10:45からとなりました。
事前に提出していた通告書がこちらです。
今回の一般質問の様子は、一部KSBニュースにも取り上げられました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/adb7b6d271a3f6a00d5ed403a5c755712e3f12ac
1.香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に対する三豊市の対応について
これは以前から取り上げていた、通称「ゲーム条例」について、三豊市の対応を質したものです。
以下、読み原稿を掲載します。
KSBニュースに切り取られた部分は赤字で表示します。
当条例は、「本県の子どもたちをはじめ、県民をネット・ゲーム依存症から守るための対策を総合的に推進する」という目的で、本年3月18日に香川県議会において可決成立し、4月1日に施行されました。
しかしながら、度々報道に取り上げられているとおり、その内容及び制定過程について多くの問題点が指摘されています。
- 根拠が明確でなく立法事実を欠く
- インターネット及びコンピュータゲームの有用性が考慮されていない
- 憲法13条に定める自己決定権を侵害する恐れがある
- 子どもの権利条約31条及び12条の趣旨に違背する
これらの問題点を明示し、5月25日香川県弁護士会から出された条例廃止を求める会長声明や、高松市の高校生により違憲訴訟が準備されていることなど、当条例の改廃を求める動きは激しさを増しています。
また、この訴訟の取り組みは、6月11日のニューヨークタイムズにも掲載され、国際的にも注目を集めています。
特に意見の多くは18条2項の
保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。
という点にフォーカスされており、香川県弁護士会からも条項の即時削除を求められています。
長時間のプレイが障害につながるという明確な科学的根拠は存在せず、政府も3月、条例に関する質問主意書への答弁として、「ゲーム時間の制限に係る有効性及び科学的根拠は承知していない」との見解を示しています。
県議会議によれば、本条例は「インターネットやゲームを全て否定したり、子どもの人権の侵害や家庭での教育への過度な干渉を行う意図はない」とのことですが、現時点で県にそのつもりがなければ良いということではありません。
これらの問題視されている条項を、いつ、誰が(例えば対応する各自治体も含めてそれらが)どう解釈し実行するのかは不透明です。例えば、先の緊急事態宣言下で問題になった「自粛警察」と呼ばれた社会風潮のように、誤った正義感の根拠とされてしまう懸念もあり、先程ご紹介したニューヨークタイムズの記事には、「(罰則などの)強制的な仕組みはなくても、行政からの公的な提案には従うべきだという強い社会的圧力がある」と指摘されています。
また、各種問題点は県議会が実施したパブリックコメントでも指摘されていましたが、パブコメの趣旨から外れ、賛否を集計した上で、賛成多数という結果をとりあげ、懸念点の払拭に務めなかったことについても、手続き上の問題を指摘されています。
そしてこの一連の展開により、香川県全体のイメージが悪化したことを市としても認識し、備えなければならないと考えます。(三豊市はこれに巻き込まれてはいけない)
さて、当条例には「学校の責務」「市町(しまち)の役割」が明記されており、三豊市としての対応が求められています。
私は2011年から、県教育委員会から委嘱を受け「さぬきっ子安全・安心ネット指導員」として活動しており、インターネットの様々なリスクから子どもたちを守るために、小中学校や幼稚園で開催される学習会で講師を務めている経験から、適切な指導や実際に依存症に陥った子どもたちに対するフォローの必要性については十分承知しているつもりです。
しかし、当条例を根拠に取り組むとなれば、先に示したような問題点があることを踏まえた上で、それらの影響を回避しつつ、適切に取り組んでいただかなければならないと考えております。
そこで以下の4つの点について質問いたします。
- 条文に明記されている「学校の責務」についてどのように対応するのか
ICTリテラシーの教育は、ICTとの適切な距離や関わり方を教えることが大切であり、リスクがあるからといって遠ざけたところで解決するものではありません。
デジタルネイティブ世代にふさわしい対応を求めます。 - 同じく条文に明記されている「市町(しまち)の役割」についてどのように対応するのか
- 条例施行までの経緯に関わる風評が及ぼす、市が推進する各種施策への影響について。
三豊市に移住を検討していた方から「ゲーム条例が可決されたね。まだ移住していなくてよかったよ。」という声を直接聞きましたし、第11条で(事業者の役割)を課したことからICT業界からもあまり良い評判は聞こえてきません。
関係人口・移住定住施策、ふるさと納税、MAiZMの目的のひとつである産業集積にも少なからず影響するものと考え、当局の見解を伺います。 - eスポーツについて
香川県議会は条例制定に先立ち、11月定例議会において、ゲーム依存を助長するという切り口で「eスポーツの活性化に対して慎重な取組みを求める意見書」を採択し、提出しています。
しかし現在、eスポーツは大きな成長を見せており、プロゲーマーは子どもたちが目指す将来像として認知され、専門の教育をする学校も存在しています。
ゲーム依存を不安視するがために、プロゲーマーを目指す子どもたちのプレイ時間を一律に60分という目安でくくるのであれば、それはプロ野球選手を目指す子どもたちに、「野球の練習は1日60分まで」といっているのと何ら変わりがありません。
そこで三豊市としては、eスポーツあるいはプロゲーマーを、キャリア形成の面からどのようにとらえているか、お答え下さい。
また、eスポーツは要項を満たせば「スポーツ・文化芸術大会出場補助金・激励金」の対象になるジャンルであるのかについても教えて下さい。
質問の内容から分かる通り、私は同条例の内容に、部分的に反対を示しています。が、三豊市や香川県が、AIやICTへの取り組みを積極的に進めていることから、その分野の先進地であろうとするのならば、依存症などのリスク対策についても先進的であるべきという考えは持っています。
であればなおのこと、示された懸念事項に対する議論を十分に尽くした上で条例を成立させるべきであったと思いますし、対応する側の三豊市にも、その点を考慮した適切な対応を求めたいと考えております。
ご答弁をお願いいたします。
以下に答弁要約を掲載します。
- 昨年の10月に「みとよヤングサミット」を開催し、小・中・高共通の「スマホ・ゲ-ム利用みとよ宣言」がなされた。現在、三豊市の子どもたちにとっては、自分たちで作ったこの宣言が基になるル-ルとして位置づいているところだが、香川県の対策条例が制定されたことを機に、再度、子どもたちがみとよ宣言を点検し、情報モラルの向上に努め、ゲ-ム障害に陥らないようにしていくことが学校の責務
- 学校やスクールソーシャルワーカー(SSW)、子育て世代包括支援センター、さらには福祉課が連携して、まずは予防に取り組む一方で、依存症に陥った場合には、早期回復に向け保健・福祉・医療の専門家が連携して取り組んでいくことが求められている
- 直接的な影響はない。
香川県の条例が「学ぶ時間を制限する」という趣旨を含むものではないと考え、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、今後はますますオンライン学習が普及し、オンラインの有用性についての理解が進むと思われるなか、MAiZMの目的とするAI・ディープラーニング技術を活用できる地域人材の育成及び事業創出の支援をおこない、産業集積を目指して本市や社会の活性化に寄与できるように努める。 - 新たに生まれてきたeスポーツも、他のスポーツと同様に、一つの職業として捉えることも可能であるものと考えている。
「三豊市スポーツ・文化芸術大会出場補助金」及び「同激励金」の交付対象となり得る分野であると考えられる。
まとめ
正直に言うと、県の条例に対し、市がどのように評価しているのかについても質したいところではありますが、そこは市の立場上難しいと判断しました。
そこで、論点を、「子どもたちのキャリア形成に対する多様性に対する見解」とし問いかけました。
答弁に対して、ヤングサミットの取り組みは素晴らしいので、次のステップとして、ゲームの時間を制限することで成り立たなくなる将来像をもった子もいるのだということを認識し、ルールをアップデートできるよう導いてほしい。それが、「パートナーシップ制度」を導入するなど、多様性を尊重した取り組みをしてきた三豊市の取るべき道であるとお願いをしました。
ニュースに切り取っていただいた部分については、世の中の条例に対する問題意識と照らし、適切であったと思います。
eスポーツについては、プロゲーマーが職業として捉えられるものであり、「三豊市スポーツ・文化芸術大会出場補助金」及び「同激励金」の交付対象となり得る分野であるという答弁が引き出せたことが、良かったと考えています。
2.GIGAスクール構想について
読み原稿
2023年度の達成を目標としていた「児童・生徒一人一台端末」の整備が、本年度に前倒しされ、三豊市でも今議会において約5億5千万円の補正予算が上程されています。
緊急事態宣言以降、在宅・オンライン学習の需要が高まる中で、積極的に整備を進めることには賛成ですが、その成果として十分な費用対効果を求めていかなければなりません。
そこで十分な成果を得るために必要と思われることを2つご紹介いたします。
1. ComputationalThinking(コンピュテーショナルシンキング)を身につけること
2. 普段遣いのICTの大切さを知る
まず1点目
ComputationalThinking(コンピュテーショナルシンキング)について
先日、社会情報学会の2020年度社員総会シンポジウムがオンライン開催され、外部参加をさせていただいたのですが、基調講演の中で非常に興味深いお話がありました。
これからの情報教育には、ComputationalThinking(日本語訳では「計算論的思考」)が重要であるということです。
これは、コンピュータ・サイエンティストが一般に使用する問題解決のアプローチ、つまりコンピュータ・サイエンティストのように考えるということです。
これが日本においては
=プログラミング的思考
=論理的思考
=コンピュータのように考える
=プログラミング技術
のように誤解されていることが多いようですが、ここでいうComputationalThinkingはそういうことではありません。
「道具」が変わると「思考」も変わるということ、
例えば牛乳・パン・卵を忘れないように買ってくるというミッションがある場合、
(道具がない)
牛乳パン卵を繰り返し脳に覚え込ませる。
(紙とペンという道具が登場)
買って来るべきものをメモに取り、メモを取ったということを記憶に留めるよう思考が変わる
では、コンピュータという道具が登場したことにより、どのような思考の変化が必要なのかというと、それは社会の様々な問題の解決策を、コンピュータが効果的に実行できるように表現することであり、この能力を、幼稚園から高校を卒業するまでの13年間で体系的に身に着けさせる必要があるとのことでした。
次に2点目、普段遣いのICTの大切さについて
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言において、多くの学校で遠隔授業への取り組みが行われました。
その点について、香川短期大学、経営情報課の中俣保志教授にお話を伺いました。
文科省から出た遠隔授業指針では、
- ZOOM、WebExなどのリアルタイム型
- Youtubeを始めとするオンデマンド型
- それぞれに学生からの反応が寄せられる形で行うこと。
とされています。
この範囲で多くの取り組みがなされましたが、最もスムーズに導入できたのは、Youtubeでオンデマンド配信し、Lineで学生とのコミュニケーションを取るというスタイルだそうです。
YoutubeやLineは、学生たちが普段使っているものであり、それを持ってきたからスムーズに導入できたわけです。
逆に、もともと専用の遠隔授業プラットフォームを持っていた学校では、それを突然フル稼働させようとしたところサーバダウンなど多くの問題が発生し、使い物にならなかったということが多いそうです。
このことから、普段使いのICTがいかに大切であるかということが浮き彫りになったということです。
さて、ご紹介した2つのことを根拠にして申し上げたいのは、子どもたちに貸与する端末をどこまで自由に使わせることができるかがポイントになるということです。
5月10日の四国新聞の記事で、デザイン系ソフトウエア開発などで知られる「アドビ」の教育市場部長、小池晴子氏はこのようにコメントしています。
最も懸念するのは、活用シーンやルールを決め過ぎてせっかくの端末の活用が制限されること。包丁と同じで、安全な使い方をきちんと教えてあげつつも、便利で必要不可欠な道具として子どもたちが自主的に使えることが一番いい環境です。
またGIGAスクール構想についての文部科学大臣のメッセージには、
予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成していくことが必要です。
とあります。
ここで言う資質・能力は、過剰に制限された状況で育まれるものではありません。
つまり、子どもたちを守るためのフィルタリングやセキュリティと自由度のバランスが重要であることをお伝えした上で、三豊市の整備方針・運用方針がどのように策定されているのかについて伺います。
答弁概要
今後、学校のみならず、家庭や社会のあらゆる場面でICT活用がスタンダードとなっていくと予想されることから、運用方針の策定にあたりましては、子供の興味や関心を制限することにつながらない様に配慮する必要があると考えます。デジタルネイティブ世代ならではの自由な発想を促すこと、子どもたちが「まずはコンピュータを楽しむこと」、遊び=(イコール)学びではない、と考えるのではなく、楽しみながら学ぶことで実践し、たくさん実践することで理論を学び深い理解へとつながっていくものと考えます。そしてこれからの時代を生きる上で必須となりますITリテラシーやインターネットリテラシーを養うことも重要であると考えております。
一方で、児童生徒が危険にさらされることやいじめが促進されることなどは避けなければならないことであり、この二つのバランスを考慮していくことも重要だと認識しております。
学習指導要領において、「情報モラル教育」は総則にあげられる「情報活用能力」の中の要素として、また、道徳科や技術科の項目として挙げられております。三豊市で採用している道徳の教科書においても、小中学校ともに情報モラルについての題材やコラムが多数掲載されております。
これらのことから、発達段階やカリキュラムとの整合性を意識しながら、先ほど述べましたバランスも考慮し、学年ごとに最適な端末利用ポリシーを設定することが必要だと考えております。
まとめ
この質問では、非常に難しいお願いをしました。
なぜならば、制限をかけて余計なことができないようにしたほうが、問題が起こりにくく管理が簡単だからです。
学校現場で起こった些細な問題を、鬼の首を取ったように騒ぐ人も少なからずいるのが現実です。
しかしそのために自由度を犠牲にしたのでは、デジタル・ディバイドは広がるばかりです。
学年ごとに最適な端末利用ポリシーを設定することが必要との答弁がありましたが、これら学校のルールは、問題が発生したとき、制限を強化する方向での見直しは速やかに行われるが、新たな技術、サービス、あるいは文化に対応して緩和する方向には、国の方針などの特別なきっかけがなければ、なかなか動きづらいものだと感じています。
緩和の方向も含めて、早いサイクルで見直しを続けてほしいとお願いをしました。